日本、暗号資産の普及拡大へ課税見直しを検討「1200万口座」を超える市場と税制改革の課題

ビジネス

監修者・竹村 直浩

会計事務所での経験を基にキャリアを開始。
約30年間にわたり、データベースマーケティング、金融、起業、BPO業務、新規事業立案に従事。
資金調達や財務管理にも精通し、現在は自ら代表を務める会社を経営しながら、経営管理や新規事業立案の業務委託も請け負う。

日本における暗号資産市場は1200万口座を超える規模に成長しています。制度整備や円建てステーブルコインの導入により、利用者保護と利便性が両立する環境が整いつつあります。今後は税制改正と官民連携によって、新しい金融エコシステムの形成と国際競争力の強化が求められています。

暗号資産市場の拡大と利用者動向

日本の暗号資産市場は年々成長し、取引口座数は1200万を突破しています。人口比でみれば10人に1人以上が暗号資産口座を保有していることになり、世界的にも高い利用率を誇ります。この普及を支えたのは、資金決済法の改正や暗号資産交換業者の登録制導入などの法整備です。これにより、流出防止や顧客資産の分別管理が義務化され、安全性が確保されました。信頼性の高い制度が整ったことで、国内の投資家や中小企業も参入しやすくなり、利用が一気に広がったのです。さらに、円建てステーブルコインの登場は決済分野の利便性を高めています。たとえば国際貿易における送金を円建てで完結できれば、為替リスクを抑えつつ迅速な資金移動が可能になります。この点は特に中小企業の海外進出において大きな意味を持ちます。従来の投資目的だけでなく、日常の決済や国際ビジネスにおける活用が進むことで、市場はさらに拡大していくと見込まれています。


Web3時代における金融変革と暗号資産の役割

インターネットの進化はWeb1.0、Web2.0、Web3.0という三段階に分けられます。Web1.0は情報閲覧中心、Web2.0はSNSによる双方向交流、そしてWeb3.0ではブロックチェーンを基盤にした「分散型インターネット」が広がっています。この分散型の仕組みにより、中央管理者を介さずに契約や送金が可能となり、利用者自身が資産やデータを管理する時代が到来しました。金融分野では、スマートコントラクトによる自動決済やAIとの連携による不正防止など、新しい仕組みが導入されています。こうした技術は個人だけでなく企業活動にも影響を与えます。企業は国際送金や資金調達の効率化を実現でき、利用者は安価で迅速なサービスを享受できます。以下の表はWeb1.0からWeb3.0までの特徴を整理したものです。

時代特徴金融への影響
Web1.0静的な情報閲覧インターネットバンキングの萌芽
Web2.0SNS・モバイル中心フィンテックの台頭、送金アプリ普及
Web3.0分散型・ブロックチェーン基盤スマートコントラクト、暗号資産取引の普及

Web3.0は金融の構造を根本から変える存在であり、日本にとっても新しい成長の柱となる可能性があります。


日本の規制整備と市場成長の関係

日本は国際的に見ても早期に規制整備を進めた国です。2017年には暗号資産交換業者の登録制が導入され、2019年には「仮想通貨」から「暗号資産」へ呼称を変更し、顧客資産の優先返還制度が新設されました。これらの制度によって市場の信頼性が高まり、投資家の安心感を生み出しました。実際に国内口座数は増加し、若年層や中高年層の双方が参入するようになっています。一方で、規制が厳しすぎるとイノベーションを阻害する可能性があるため、柔軟性のある制度運営が必要とされています。以下は日本と海外の規制の比較です。

項目日本海外(例:米国)
登録制度金融庁登録必須一部州ごとに異なる
顧客資産管理分別管理と優先返還義務義務が不十分な場合あり
呼称暗号資産仮想通貨・暗号通貨など混在
信頼性高い流出事件や詐欺のリスクが残る

日本の規制は厳格でありながら信頼性を高め、市場成長を支えている点が大きな特徴です。


国際競争力強化に向けた日本の立場

世界では暗号資産をめぐる政策競争が激化しています。米国では法案審議が進み、欧州では包括的規制が導入されるなど、各国が自国の競争力を高めようとしています。日本は規制を先行して整備した強みを持つ一方、厳格なルールが企業活動を制約するとの指摘もあります。そこで重要となるのが、国際基準と国内産業育成を両立させる戦略です。円建てステーブルコインは日本独自の強みであり、国際決済の効率化や海外進出を支援します。以下に国際競争力を高める要素を整理しました。

要素日本の強み課題
規制信頼性が高い柔軟性に欠ける可能性
通貨円建てステーブルコイン発行海外普及には時間が必要
技術ブロックチェーン開発力民間の挑戦が制限されやすい

規制の信頼性を武器に、国際競争力をどう確保するかが今後の焦点です。


暗号資産に関する税制改正の方向性

税制は市場の発展を左右する要素です。現行制度では法人が保有する暗号資産に含み益課税が課されるため、企業は保有を控える傾向があります。この課題を解決するため、令和7年度の税制改正大綱では実現益課税の導入が検討されています。また、投資家保護を目的に取引業者の報告義務を整備する方針も示されています。以下に現行制度と改正の方向性を比較しました。

項目現行制度改正方向
含み益課税法人に課税実現益課税に変更
投資家保護制度は限定的金融商品並みの保護を整備
報告義務一部任意業者に義務化を検討

税制改正が進めば、企業の参入が容易となり、市場の拡大と新規ビジネスの創出につながるでしょう。


官民連携によるエコシステムの構築

暗号資産の健全な成長には官民の協力が欠かせません。政府は制度を整え、民間は新サービスを開発することで相互に補完関係を築きます。さらに、大学や研究機関との連携で新しい技術を実社会に導入する動きも広がっています。例えば、金融庁が枠組みを整備し、民間企業が円建てステーブルコインを発行すれば、国内決済や国際送金がスムーズになります。以下に官民連携の役割分担を整理しました。

主体役割期待される成果
政府・金融庁法整備、利用者保護安全性と信頼性の確保
民間企業新サービス開発利便性の高い決済手段
大学・研究機関技術研究と応用ブロックチェーンやAIの進展
国際協力海外展開日本発の技術を世界に普及

官民が協力してエコシステムを築くことが、日本の競争力を高める基盤となります。


まとめ

日本の暗号資産市場は法整備と利用者保護を基盤に拡大してきました。今後は税制改正、国際競争力強化、官民連携が市場発展のカギを握ります。ステーブルコインを含む新しいサービスの普及や企業の積極的な参入によって、日本は国際的なリーダーシップを発揮できる可能性があります。暗号資産は投資商品にとどまらず、決済や資産形成の手段として社会に広がり、日本経済全体の成長を支える重要な基盤となるでしょう。