サウジアラビアは現代日本語ではカタカナで書かれますが、古い新聞や文献をめくると「沙地亜剌比亜」や「沙烏地阿拉伯」といった難解な漢字表記が登場します。これらは意味を持つ漢字ではなく音を移すための当て字です。本記事では、その成り立ちや歴史的背景をわかりやすく紹介します。
サウジアラビアの漢字表記が生まれた理由
サウジアラビアを漢字で「沙地亜剌比亜」や「沙烏地阿拉伯」と表したのは、外国語を漢字で音写する伝統によるものです。日本語はカタカナでの外来語表記が一般化する前、中国語の音訳に倣って漢字で表記する習慣がありました。
当て字の仕組みは以下の通りです。
漢字 | 音の役割 | 説明 |
---|---|---|
沙 | サ | サウジの「サ」を表現 |
烏 | ウ | 「ウ」の音を補う |
地 | ジ | 「ジ」の音に対応 |
亜 | ア | アラビアの最初の音 |
剌比亜 | ラビア | Arabia を音訳した部分 |
阿拉伯 | アラブ | 中国語で「アラブ」を意味する音訳 |
ここからもわかるように、漢字の意味そのものには関係がなく、音を近づけることだけが目的でした。
「沙地亜剌比亜」と「沙烏地阿拉伯」の違い
両者はどちらもサウジアラビアを意味しますが、翻訳の経路や中国語表記の違いによって別の形が使われました。
表記 | 読み | 特徴 | 主な使用時期 |
---|---|---|---|
沙地亜剌比亜 | サウジアラビア | 明治から昭和にかけて日本で使われた表記 | 日本の新聞・外交文書 |
沙烏地阿拉伯 | サウジアラブ | 中国語の影響を強く受けた表記 | 中国語圏・翻訳書に多い |
「亜剌比亜」も「阿拉伯」も同じく「アラビア」を意味する音訳ですが、資料や辞書の違いから複数の表記が併存したのです。
外国地名を漢字で表す日本語の伝統
サウジアラビア以外にも、外国地名は数多く漢字で音訳されてきました。以下の表はその代表例です。
漢字表記 | カタカナ表記 | 元の国名 |
---|---|---|
亜米利加 | アメリカ | America |
英吉利 | イギリス | England |
独逸 | ドイツ | Deutschland |
仏蘭西 | フランス | France |
伊太利亜 | イタリア | Italia |
これらもすべて音を漢字で置き換えただけの表記であり、意味とは関係ありません。サウジアラビアの表記も同じ伝統の中で生まれました。
中国語との関係と表記の多様性
日本語の外国地名表記には中国語の影響が強く表れています。中国語には現在でも外国地名を漢字で表す習慣があり、サウジアラビアは「沙特阿拉伯」と書かれます。
ここで比べると違いが明確になります。
言語 | 表記 | 読み |
---|---|---|
日本語(歴史的) | 沙地亜剌比亜 | サウジアラビア |
日本語(歴史的) | 沙烏地阿拉伯 | サウジアラブ |
中国語(現代) | 沙特阿拉伯 | シャートゥ・アーラーボー |
つまり、日本語の古い漢字表記は中国語音訳の影響を強く受けていることがわかります。
外国人に理解してほしいポイント
サウジアラビアの漢字表記について、外国人が理解しておくと便利な点を整理します。
ポイント | 説明 |
---|---|
意味を持たない | 漢字の意味ではなく音を表すために選ばれた |
現代では使わない | 標準は「サウジアラビア」というカタカナ表記 |
中国語の影響 | 日本語表記は中国語音訳から取り入れられた |
歴史資料で重要 | 古い文献を読む際に理解が必要 |
外国人が誤解しやすいのは「沙=砂漠」「烏=鳥」と意味で解釈してしまう点です。実際には意味ではなく音を写す仕組みであることを知っておくと、歴史的な文献を読むときの理解がスムーズになります。
歴史的表記からわかる日本語の柔軟さ
外国地名を漢字で表す習慣は、日本語の柔軟さを示しています。カタカナがまだ一般的でなかった時代、人々は馴染みのある漢字を利用して外国語を取り入れました。これは異文化を受け入れる工夫であり、日本語の表記体系が時代とともに変化してきた証拠でもあります。
また、当時の新聞や辞典では漢字表記が広く使われていたため、公式な文書においても自然な形でした。やがて、わかりやすさや教育のしやすさからカタカナ表記が優先され、今日の「サウジアラビア」という形に落ち着きました。
まとめ
「沙地亜剌比亜」と「沙烏地阿拉伯」は、サウジアラビアを表す歴史的な漢字表記です。意味を持つわけではなく、音を再現するための当て字でした。複数の表記が存在するのは、中国語を経由した翻訳の違いに由来します。現代ではカタカナが標準ですが、過去の資料を読む際にはこれらの知識が役立ちます。さらに、日本語がどのように外国語を取り入れてきたかを示す文化的な証拠でもあります。