マダガスカルが「馬達加斯加」と書かれる理由を解説!日本語の当て字と漢字表記の関係とは

借用語

監修者・竹村 直浩

会計事務所での経験を基にキャリアを開始。
約30年間にわたり、データベースマーケティング、金融、起業、BPO業務、新規事業立案に従事。
資金調達や財務管理にも精通し、現在は自ら代表を務める会社を経営しながら、経営管理や新規事業立案の業務委託も請け負う。

マダガスカルはアフリカ東部にある大きな島国です。現代ではカタカナで「マダガスカル」と表記しますが、昔の日本では「馬達加斯加」という漢字が使われていました。これは意味を表すのではなく、音を近づけるために選ばれた漢字、いわゆる当て字です。外国人にとっては不思議に感じるこの表記の背景を、日本語の歴史的な流れとともに分かりやすく解説します。

漢字表記「馬達加斯加」の由来

「馬達加斯加」という表記は、江戸時代から明治時代にかけての日本語表記方法の一つでした。当時、外国語の地名や人名を日本語に置き換える際には、カタカナではなく漢字を利用することが多かったのです。その理由は、書物の大部分が漢字で構成されていたため、外国語も漢字で表す方が統一感があったからです。

マダガスカルを分解すると「マ・ダ・ガス・カル」の4音に分かれます。これを漢字に置き換えたのが「馬達加斯加」です。次の表を見れば、その対応関係がわかります。

音の部分漢字選ばれた理由
「馬(うま)」の読みの一部から「マ」を取った
「タツ」「ダツ」と読むため「ダ」の音を表現できる
ガス加斯「加」と「斯」を組み合わせることで「ガス」に近づけた
カル「加」の「カ」を利用して「カル」の一部を表す

このように「馬達加斯加」は発音を日本語の文字で近づけるための当て字であり、意味的なつながりはありません。


当て字が使われた理由

外国語を漢字で写したのには、いくつかの理由があります。まず、当時はカタカナが外来語専用の表記として定着していなかったことです。カタカナは存在していましたが、文章全体をカタカナで書くと学術的な重みが欠けると考えられていました。

さらに、漢字は見た目に安定感があり、文章の中に組み込んでも違和感が少なかったのです。そのため、外交関係の文書や地理学の書籍では外国の国名も漢字で表されました。

例えば、以下のように多くの外国名が漢字に置き換えられていました。

国名当て字現在の表記
アメリカ亜米利加アメリカ
イギリス英吉利イギリス
フランス仏蘭西フランス
ドイツ独逸ドイツ
ポルトガル葡萄牙ポルトガル
オランダ和蘭オランダ

こうした例からも分かるように、当て字は音を借りて外国語を表記する工夫であり、意味を伝えるためのものではありませんでした。


当て字と意味の混同

当て字は便利な方法でしたが、一方で問題もありました。それは意味と音が混同されやすいことです。たとえば「馬達加斯加」と見たとき、知らない人は「馬(うま)」や「達する」といった意味を連想してしまいます。しかし、ここでは意味はまったく関係なく、音を写すためだけに選ばれた字なのです。

この点を整理すると次のようになります。

特徴当て字の場合カタカナの場合
表す対象音を中心に選んだ漢字外国語の音をそのまま再現
意味の有無意味は無関係意味を持たない
読みやすさ人によって誤解が生じる可能性誰でもすぐ理解できる
歴史的役割漢字中心の文章文化を保つ役割近代以降の外来語表記の標準

このように、当て字は一時代の工夫であり、やがて誤解の少ないカタカナ表記が主流になっていきました。


カタカナ表記への移行

明治以降、教育制度が整備されると、外国語の表記にカタカナが広く使われるようになりました。カタカナは意味を持たないため、外国語の音を正確に表すのに適していたのです。

例えば「馬達加斯加」と書かれると、漢字の意味を考えてしまい理解に時間がかかります。しかし「マダガスカル」と書けば、外国語をそのまま日本語の音で表しているとすぐに分かります。この合理性から、当て字は徐々に使われなくなり、現代ではほとんど見られません。


当て字が示す日本語の特徴

当て字は単なる表記方法ではなく、日本語が外国語をどのように受け入れてきたかを示す文化的な証拠でもあります。外国の地名や人名を自国の文字に取り込むことで、日本人は国際的な情報を自分たちの文脈に合う形で理解してきました。

この工夫は、日本が鎖国を解いて世界と交流を深めていった時期の知的な努力でもあります。「馬達加斯加」を知ることで、単に言葉の問題を学ぶだけでなく、当時の日本人が世界をどのように見ていたのかを理解できるのです。


まとめ

マダガスカルを「馬達加斯加」と表記したのは、音を漢字に置き換えるための当て字でした。意味は一切なく、当時の出版文化や教育事情によって漢字表記が選ばれていたのです。現在ではカタカナが使われていますが、当て字を知ることは日本語の歴史や国際交流の歩みを理解するうえで大切です。

外国人にとっても、この知識は日本語の奥行きを知るきっかけになります。歴史的な背景を踏まえれば、「馬達加斯加」という不思議な漢字表記も、単なる奇妙なものではなく、日本人の工夫と文化の一端だと分かるでしょう。