西アフリカの国コートジボワールは、かつて日本語で「象牙海岸」と呼ばれていました。これはフランス語の国名を意訳した表記でしたが、現在では「コートジボワール」が正式な呼称として使われています。本記事では、その呼び名の由来と変更の背景を解説します。
「象牙海岸」という表記の由来
「象牙海岸」という言葉は、フランス語の Côte d’Ivoire を直訳したものです。フランス語の「Côte」は海岸、「Ivoire」は象牙を意味します。ヨーロッパ諸国はアフリカの沿岸地域を交易品に基づいて呼んでおり、象牙が盛んに取引された地域は「象牙海岸」とされました。
同じ西アフリカでは以下のような呼称がありました。
呼称 | 現在の国名 | 呼称の由来 |
---|---|---|
象牙海岸 | コートジボワール | 象牙の取引が盛んだった |
黄金海岸 | ガーナ | 金の産地として知られた |
胡椒海岸 | リベリア周辺 | 胡椒の交易が中心 |
奴隷海岸 | ベナン周辺 | 奴隷貿易の拠点だった |
このように資源を基準にした呼称は、ヨーロッパ人にとって分かりやすいものでしたが、現地の文化や人々の生活を反映したものではありませんでした。日本語でもフランス語を直訳して「象牙海岸」と呼び、地図や教科書にも広く登場しました。
過去の漢字表記と現在の正式名称
独立後も長い間、日本では「象牙海岸共和国」という表記が使われていました。しかし1980年代以降、コートジボワール政府は国連を通じて「国名はフランス語そのままの形で使用してほしい」と要請しました。この要請を受け、日本を含む多くの国が音訳である「コートジボワール共和国」を正式表記に改めました。
時代 | 日本語での呼称 | 背景 |
---|---|---|
植民地時代〜独立後しばらく | 象牙海岸共和国 | フランス語の意訳表記が一般的 |
1980年代以降 | コートジボワール共和国 | 政府が国際的に音訳を要請 |
この変更は単なる表記上の違いではなく、国の尊厳を守り、国際的な存在感を高める重要な決定でした。
なぜ意訳から音訳に変わったのか
国名表記が意訳から音訳へ移行した背景には複数の理由があります。
- 国際的な統一性の確保
どの言語でも「Côte d’Ivoire」という名称をそのまま使うことで、外交や経済の場面で混乱を防ぐことができました。 - 植民地主義的な表現の回避
「象牙海岸」という言葉は交易品に基づく呼称であり、独立国としての誇りを損なう可能性がありました。 - 他地域との混同を避ける
「黄金海岸」「胡椒海岸」など似た呼び名があったため、独自性を強調する必要がありました。
これらの理由から、「象牙海岸」ではなく「コートジボワール」を使うことが国の意思として国際的に示されたのです。
他の国名変更との比較
コートジボワールの例は、他国の国名変更と比較すると理解しやすくなります。
旧名称 | 新名称 | 変更理由 |
---|---|---|
象牙海岸 | コートジボワール | 植民地主義的表現を避けるため |
ビルマ | ミャンマー | 政府の決定による国名統一 |
セイロン | スリランカ | 植民地時代の名残を払拭 |
ザイール | コンゴ民主共和国 | 政治体制の変化に伴う改称 |
このように、国名変更は単なる翻訳の問題ではなく、その国の歴史や文化、国際社会での立場を反映する重要な行為といえます。
日本での「象牙海岸」の使われ方
日本では長年「象牙海岸」という表記が用いられ、地理の教科書や新聞記事にも頻繁に登場しました。しかし1990年代に外務省や主要メディアが「コートジボワール」へ表記を統一したことで、次第に旧称は姿を消しました。
時期 | 使用状況 | 代表的な媒体 |
---|---|---|
戦後〜1980年代 | 象牙海岸が一般的 | 学校教科書、新聞記事、地図帳 |
1990年代以降 | コートジボワールに統一 | 外務省、新聞社、放送局 |
現在 | 公的には音訳のみ使用 | 教育現場、国際関係文書 |
ただし、年配世代や歴史的文脈では「象牙海岸」という言葉に触れることがあり、両者の関係を説明することが求められます。
象牙の交易と地名の関係
コートジボワールが「象牙海岸」と呼ばれた背景には、象牙の交易が大きく関わっています。ヨーロッパ諸国は象牙を高級品として珍重し、ピアノの鍵盤や装飾品に用いていました。そのため象牙の集積地であったこの地域は自然に「象牙海岸」と呼ばれました。
交易品 | 利用用途 | 歴史的意義 |
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象牙 | ピアノ鍵盤、彫刻、宝飾品 | 19世紀にヨーロッパで高く評価 |
金 | 貨幣、装飾品 | 「黄金海岸」の呼称の由来 |
胡椒 | 調味料、交易品 | 胡椒海岸の名前の背景 |
この表からも分かるように、呼称はその土地の文化や人々ではなく、ヨーロッパ人の商業的価値観を基準にしていたのです。
まとめ
コートジボワールが日本語で「象牙海岸」と呼ばれていたのは、フランス語の国名を意訳したことに由来します。しかし独立後、同国政府は国際社会に対し「フランス語そのままの名称を使用してほしい」と求め、現在では「コートジボワール共和国」が正式な呼称となりました。
この変更は国の尊厳を守るだけでなく、国際的な信頼を高めるための重要な措置でした。外国人がこの名称の変遷を知ることは、国際理解を深めるうえで意義があります。歴史を学ぶ際には「象牙海岸」という表記も知っておく必要がありますが、現代の公的な場面では「コートジボワール」を用いることが正しい選択です。