ソウルの漢字表記が「首爾」と書くのはなぜ?過去の「漢城」「京城」との違いとは

借用語

監修者・竹村 直浩

会計事務所での経験を基にキャリアを開始。
約30年間にわたり、データベースマーケティング、金融、起業、BPO業務、新規事業立案に従事。
資金調達や財務管理にも精通し、現在は自ら代表を務める会社を経営しながら、経営管理や新規事業立案の業務委託も請け負う。

韓国の首都ソウルは、韓国語では「서울(ソウル)」と表記され、漢字は公式には使われていません。しかし一部の外国語表記では「首爾」という漢字が登場します。この記事では、その背景や歴史的経緯を外国人向けに詳しく解説し、かつて使われた「漢城」や「京城」との違いを整理します。

ソウルの正式名称は固有語「ソウル」であり漢字は存在しない

ソウルという都市名は、韓国国内で唯一公式に認められた名称であり、固有語「서울」が採用されています。1945年の独立後、植民地時代に使われていた「京城」という呼称を廃止し、民族的な自立を象徴する意味で固有語を都市名にしました。

「서울」はもともと「首都」「都」を意味する一般名詞で、特定の都市名ではありませんでした。しかし独立を機に、この言葉がそのまま韓国の中心都市の固有名詞として定着しました。現在では、政府文書や道路標識、地図のすべてで「서울」が使用され、漢字は使われません

教育制度の変化もこの定着を後押ししました。1970年代以降、学校教育での漢字の比重が下がり、日常生活の多くはハングルのみで表記されるようになりました。そのため、若い世代にとって「首爾」という文字はほとんど馴染みがなく、読むことすら難しい場合もあります。


漢字「首爾」が使われるようになった理由

外国語で都市名を表記する際には、その言語の慣習に合わせる必要があります。中国語は特に、外国の地名を漢字で音訳する伝統があり、ソウルも例外ではありませんでした。そこで採用されたのが「首爾」です。

  • 「首」 … 首都や中心を意味する文字で、都市の格を示す表現
  • 「爾」 … 音を補うために選ばれた文字

結果的に「Shǒu’ěr」という発音が生まれ、韓国語の「서울」に比較的近い響きとなりました。中国語圏では新聞やニュース、学術書でも「首爾」が定着しており、外国人が最もよく目にする表記の一つです。

一方、日本語では「ソウル」とカタカナで書くのが一般的です。辞書や地図帳で「首爾」と表記される場合もありますが、日本人には読みにくく馴染みのない文字といえます。つまり「首爾」は韓国では使われず、中国語圏でのみ一般的に使用される特別な表記なのです。


歴史の中で変化してきたソウルの呼び名

ソウルは長い歴史を通じて呼び名を変え、その時々の政治的背景を反映してきました。以下にまとめます。

時代名称発音意味・由来
李氏朝鮮時代漢城ハンソン漢江の城を意味する
日本統治時代京城ケイジョウ朝鮮の中心都市を意味する
独立後ソウル(서울)ソウル固有語で「首都」を意味する

「漢城」や「京城」は歴史的な呼称であり、現代の正式名称ではありません。独立後に固有語を選んだ背景には、言語的にも文化的にも独立を強調したいという国民の意志がありました。


日本語・中国語・英語で異なるソウルの表記

現代におけるソウルの表記は、言語ごとに大きな違いがあります。

言語表記読み方
韓国語서울ソウル
日本語ソウルソウル
中国語首爾Shǒu’ěr
英語Seoulソウル

韓国語は固有語のみを使用、日本語は外来語の表記にカタカナを用いるのが標準です。英語では韓国語の発音をローマ字化した「Seoul」が広く定着しました。中国語の「首爾」だけが特殊で、漢字文化圏ならではの音訳の習慣を反映したものです。


ソウルの呼び名の文化的意味

ソウルという固有語が正式に採用された背景には、民族の自立心と文化的な誇りがあります。植民地時代に押し付けられた漢字名を排し、自国の言葉で都市を表すことは大きな意義を持ちました。

また、韓国語の「서울」には「首都」という意味がもともと含まれているため、韓国人にとっては都市名そのものが「国の中心」を表す象徴となっています。外国人がこの背景を理解すると、単に名前を知るだけでなく、韓国の文化的アイデンティティを理解する手がかりにもなります。


表で整理するソウルの名称の特徴

以下の表は、ソウルの名称にまつわる特徴をまとめたものです。

表記使用地域特徴
서울韓国国内唯一の正式名称。漢字を使わない
ソウル日本外来語の表記として定着
首爾中国語圏音訳のための表記。韓国では使わない
漢城歴史的呼称李氏朝鮮時代に使用
京城植民地時代の呼称日本統治下で使われた名称

ソウルの名前に対する国際的な理解の違い

外国人にとっては、言語ごとの表記の違いが混乱を招くことがあります。特に中国語の「首爾」は、韓国人自身が使わないため、初めて韓国を訪れる人は「これは同じ都市なのか」と疑問に思うこともあります。

そのため、旅行ガイドや国際機関の資料では「Seoul(ソウル)」が基本的に統一された名称として用いられています。しかし歴史や文化の背景を学ぶと、他の呼称にも意味があることが理解できるでしょう。


呼称の変遷を通じて見える韓国の歴史

ソウルの呼称の変化は、単なる言葉の違いではなく、韓国の歴史そのものを映し出しています。以下のように整理すると、より理解が深まります。

時期呼称背景
古代漢城漢江流域の都市としての性格
近代京城植民地時代の政治的影響
現代ソウル独立と文化的自立の象徴

まとめ

ソウルの漢字表記「首爾」は韓国国内では使われず、中国語の音訳表記に由来するものです。韓国の正式名称はあくまで「서울(ソウル)」であり、歴史的には「漢城」や「京城」と呼ばれていた時代もありました。

日本語では「ソウル」とカタカナで表記するのが一般的で、「首爾」は特殊な例です。外国人がこの違いを理解すれば、韓国の文化や歴史に対する理解が深まり、単なる地名以上の意味を知ることができます。

名前の違いの背後には、独立と文化的自立の歴史が刻まれているのです。