かつて日本では、南アフリカを「南阿弗利加」と表記していました。この表記は単なる古い言葉ではなく、中国語由来の音訳と日本語の漢字文化が融合して生まれたものです。本記事では、その成り立ちや各漢字の意味、そして現代で使われなくなった背景までを、分かりやすく解説します。
南阿弗利加という表記の由来
「南阿弗利加」は、かつて中国語の音訳をもとに作られた当て字です。
南は方角を表す漢字で、「阿弗利加」が「Africa」の音に由来します。明治時代、日本では海外の地名や国名を漢字で表す習慣があり、アフリカは「阿弗利加」と書かれました。
当時の日本語は、外国語をカタカナで表記する習慣がまだ定着しておらず、漢字の当て字を使うことが一般的でした。中国の漢訳書や新聞を通じて入ってきた地名も、そのまま日本で採用されることが多かったのです。
阿(ā)は音訳の際に母音「A」を表す漢字
弗(fú)は「フ」や「fu」の音を表す
利(lì)は「リ」や「ri」
加(jiā)は「カ」や「ka」
つまり、「阿弗利加」を直訳すると「アフリカ」という音に近くなります。
表1 漢字と音の対応例
漢字 | 発音(中国語) | 日本語音訳 | 対応する音 |
---|---|---|---|
阿 | ā | ア | A |
弗 | fú | フ | Fu |
利 | lì | リ | Li |
加 | jiā | カ | Ka |
明治時代の地名表記の特徴
明治時代から大正時代にかけて、日本は急速に西洋の地理や文化を受け入れました。この時期の外国地名は、以下の3つの方法で表記されることが一般的でした。
- 漢字の音訳(中国経由)
例 南阿弗利加(South Africa)、亜米利加(America)、英吉利(England) - 漢字の意訳
例 日没国(スペイン、太陽が沈む方角の国) - カタカナ表記
例 アメリカ、イギリス、アフリカ
当時は新聞や書籍で漢字表記が好まれたため、「南阿弗利加」という形が長く使われました。
表2 明治時代の外国地名の表記例
現代の国名 | 明治期の表記 | 現代カタカナ |
---|---|---|
アメリカ | 亜米利加 | アメリカ |
イギリス | 英吉利 | イギリス |
フランス | 仏蘭西 | フランス |
ドイツ | 独逸 | ドイツ |
南アフリカ | 南阿弗利加 | 南アフリカ |
なぜ現在は使われなくなったのか
昭和期以降、日本語の外来語表記はカタカナが標準化されました。戦後の教育改革や新聞用語の統一により、当て字の多用は避けられるようになりました。
カタカナ表記の利点は以下の通りです。
- 外国語の発音に近い表記が可能
- 漢字の意味に引きずられず、誤解が少ない
- 学習者や外国人にとって理解しやすい
そのため「南阿弗利加」は歴史的・装飾的な文脈でしか見られなくなり、現代ではほとんどの場面で「南アフリカ」と書かれます。
表3 現代における使用状況の比較
表記方法 | 使用頻度 | 主な使用場面 |
---|---|---|
南阿弗利加 | 非常に低い | 歴史書、古文書、観光資料の一部 |
南アフリカ | 高い | 新聞、ニュース、一般的な文章 |
アフリカ | 高い | 大陸全体を指す場合、カジュアルな会話 |
まとめ
「南阿弗利加」という表記は、単なる古い書き方ではなく、中国語経由の音訳と日本語の歴史的表記習慣の融合によって生まれたものです。
- 阿弗利加は「アフリカ」の音訳
- 明治期には漢字表記が主流で、新聞や地図に頻出
- 現代ではカタカナ表記が標準化され、歴史的な文脈でのみ使用
この背景を知ることで、古い文献や歴史的資料を読む際に、より深く理解できるようになります。