2025年日本で医療機関の倒産が止まらない!上半期35件で過去最多 「病院・歯科医院」に一体何が?

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監修者・竹村 直浩

会計事務所での経験を基にキャリアを開始。
約30年間にわたり、データベースマーケティング、金融、起業、BPO業務、新規事業立案に従事。
資金調達や財務管理にも精通し、現在は自ら代表を務める会社を経営しながら、経営管理や新規事業立案の業務委託も請け負う。

2025年上半期、日本全国の医療機関の倒産件数が過去最多の35件に達しました。特に「病院」や「歯科医院」での経営破綻が目立ち、地域医療の現場に暗い影を落としています。光熱費や人件費の上昇、診療報酬の低迷、人材不足といった複数の要因が重なり、多くの医療機関が存続の危機に直面しています。国民の健康を支える基盤が崩れ始めている今、その背景と対策が問われています。

医療機関倒産が過去最多を更新した背景

2025年上半期の医療機関倒産は過去最多の35件に達しました。前年同期比で約40%の増加となり、特に中小規模の医療機関を中心に経営が厳しくなっています。原因は複数あり、物価上昇と診療報酬の乖離が最大の要因といえます。

主な倒産要因具体的内容影響度
光熱費・原材料費の上昇電気代・医療機器維持費が2~3割増加★★★★★
人件費の上昇看護師や技師の確保難で給与上昇★★★★☆
診療報酬の低迷改定幅が物価上昇に追いつかない★★★★★
金利上昇借入返済負担の増大★★★☆☆
患者数の減少地方人口減少と受診控え★★★★☆

中でも地方の医療機関では、人口減少により患者数が大幅に減少しています。患者の減少は売上減少に直結し、固定費の回収が難しくなるため、経営破綻に至るケースが増えています。


病院・歯科医院で倒産が目立つ理由

倒産件数が急増している中で、特に注目されるのが病院と歯科医院です。病院は入院設備を抱えるため固定費が大きく、歯科医院は自由診療比率が高く景気に左右されやすいという共通点があります。

医療機関の種類倒産件数(2025年上半期)前年同期比主な要因
病院10件+43%高額な設備投資・人手不足
歯科医院15件+50%自由診療依存・競争過多
診療所10件+30%患者減少・後継者不在

病院の経営難は、入院稼働率の低下が大きな要因です。患者が在宅医療に移行する傾向が強まり、入院収益が減少しています。
一方、歯科医院では開業件数が多く、過当競争に陥っています。自由診療中心の収益モデルが景気減速の影響を受け、患者が高額治療を控える動きが広がっています。


診療報酬制度の限界と経営圧迫の実態

医療機関の収益を支える診療報酬は、実質的に物価上昇を反映できていない制度です。2024年度の診療報酬改定率は+0.88%にとどまり、同年の物価上昇率約3%を大きく下回りました。結果として、医療機関の収益は実質マイナスに陥っています。

年度診療報酬改定率物価上昇率実質差
2023年度+0.43%+2.8%-2.4%
2024年度+0.88%+3.1%-2.2%
2025年度(見込み)+0.7%前後+2.5%-1.8%

この差が積み重なることで、病院経営は年々悪化しています。
さらに、エネルギー価格の上昇が経営を直撃しています。MRIやCTなど高出力機器を多く使用する施設では、電気料金が数百万円単位で増加しており、「診療しても利益が出ない」という深刻な声も上がっています。


医療人材不足が引き起こす医療崩壊の連鎖

人材不足は医療業界全体の大きな課題です。特に看護師や医療技師の離職が相次ぎ、補充が追いつかない状況が続いています。地方では募集を出しても応募がなく、1人のスタッフが複数業務を兼務するケースが一般化しています。

職種有効求人倍率主な課題影響
看護師2.9倍夜勤負担・労働環境離職率上昇
医療技師2.4倍給与格差・地域偏在機器運用困難
医師1.8倍地方勤務敬遠・過重労働診療制限

人材が確保できないことで、診療科の縮小や外来制限が行われる例も増えています。特に地方では、医師の高齢化により「閉院=地域医療の消滅」につながるケースが増加しています。
都市部でも過重労働が問題となり、若手医師の離職や燃え尽き症候群が広がっています。人材確保と労働環境改善は、医療維持のための最優先課題といえるでしょう。


経営再建のために必要な構造改革

医療機関の倒産を防ぐためには、構造的な経営改革が不可欠です。単なる経費削減では限界があり、地域医療連携やデジタル化の推進など、長期的な視点での再編が求められています。

改革項目内容期待される効果
地域医療連携病院間・診療所間での患者データ共有無駄な検査・重複診療の削減
デジタル化推進電子カルテ・オンライン診療の導入人件費・事務コストの削減
経営専門人材の活用医療経営士・外部コンサル導入経営改善・財務安定化
公的支援の活用助成金・補助金の最大活用資金繰りの安定

こうした取り組みは、単独では難しい場合も多く、地域や自治体が主導して行う必要があります。今後は、「医療を守る地域経営」という視点が重要になるでしょう。


まとめ

医療機関の倒産は、単なる経営破綻ではなく、地域医療の崩壊につながる社会的問題です。病院や歯科医院がなくなれば、住民が適切な医療を受ける機会が失われます。

今後は、行政・自治体・民間が一体となり、医療現場を支える仕組みを再構築していく必要があります。経営支援、人材確保、診療報酬の見直しなどを総合的に進めることが、医療の持続可能性を守る鍵です。

医療機関が再び地域の信頼を取り戻し、安心して受診できる体制を築くためには、現場の努力だけではなく社会全体の理解と支援が欠かせません。今こそ「医療を守るための共助の仕組み」が求められています。