なぜムンバイは「孟買」と漢字表記されたのか?日本語の当て字文化を読み解く

借用語

監修者・竹村 直浩

会計事務所での経験を基にキャリアを開始。
約30年間にわたり、データベースマーケティング、金融、起業、BPO業務、新規事業立案に従事。
資金調達や財務管理にも精通し、現在は自ら代表を務める会社を経営しながら、経営管理や新規事業立案の業務委託も請け負う。

インド最大の都市であるムンバイは、かつて日本語で「孟買」と書かれていました。この表記は旧称ボンベイをもとにした当て字であり、意味ではなく音を重視して作られたものです。本記事では「孟買」の由来と日本語的な意味、そして現在どのように理解されているのかを解説します。

ムンバイと「孟買」の関係

ムンバイはインド経済の中心地であり、世界的にも有名な大都市です。人口は2,000万人を超え、ボリウッド映画産業や金融機関の拠点として発展してきました。

かつて日本では、この都市を「孟買」と表記していました。これは1995年に名称がボンベイからムンバイに正式変更される以前に使われていた音訳です。

外国地名を漢字に変換する習慣は、日本語に限らず中国語文化圏全体で行われてきました。そのため「孟買」も、意味ではなく音を写すことを重視して作られた表記です。


「孟買」という漢字の意味

漢字自体には本来の意味がありますが、この場合は音写のためだけに選ばれた文字です。

漢字本来の意味発音上の役割
長子、偉大なもの、大きい「ぼん」「もう」の音を表す
買う、取引する「べい」「ばい」の音を表す

重要な点は、意味に特別な意図はなく、あくまで音に近い漢字を当てたにすぎないことです。


外国人が誤解しやすいポイント

日本語学習者の中には「孟買」を直訳して「Great Purchase」などと解釈する人もいます。これは誤解です。

外国地名を漢字に当てはめる際、日本語はしばしば意味を無視し音を優先する方法を取ってきました。以下の表に代表例を挙げます。

国名漢字表記意味上の直訳実際の意図
アメリカ亜米利加「第二の米を利益として加える国」単なる音訳
フランス仏蘭西「西の蘭を信じる仏の国」単なる音訳
ドイツ独逸「独りで優れている」単なる音訳

孟買も同じく意味を気にせず音だけを写した表記です。


現代における「孟買」の位置づけ

現在の日本語では「孟買」という表記は使われず、すべて「ムンバイ」とカタカナで書かれます。

しかし歴史的な文献や古地図を調べると「孟買」が残っており、日本語が外来語を取り入れる過程を示す重要な証拠になっています。

次の表は、外国地名の日本語表記の移り変わりを整理したものです。

都市名旧表記現在の表記使用されていた時期
ムンバイ孟買ムンバイ明治期~1995年
ニューヨーク紐育ニューヨーク明治~昭和初期
サンフランシスコ三藩市サンフランシスコ清国・明治期

このように、漢字表記からカタカナ表記へと移行する流れは時代の変化を反映しています。


「孟買」を通じて学べること

「孟買」という表記からは、日本語の以下の特徴を読み取ることができます。

  1. 漢字文化圏の影響
    中国語の地名音訳を参照し、日本でも同じ表記を採用することが多かった。
  2. 意味よりも音の重視
    外来地名を理解する上で、正確な発音に近づけることを優先した。
  3. 時代ごとの言語政策
    明治期以降は西洋地名を積極的に漢字化したが、戦後はカタカナが主流になった。

これを理解すると、単なる都市名以上の文化的背景を読み解くことができます。


他の都市との比較

「孟買」のように、意味ではなく音を優先した当て字は世界各地の都市にも存在しました。

都市名当て字語感の由来現在の表記
ロンドン倫敦中国語の音訳ロンドン
パリ巴里中国語の音訳パリ
カイロ開羅中国語の音訳カイロ

この表を見ればわかる通り、孟買は決して特殊な例ではなく、世界中で共通する慣習の一部でした。


まとめ

  • ムンバイの漢字表記は「孟買」で、旧称ボンベイを音で写したもの
  • 漢字の意味は考慮されず、音写を目的とした当て字にすぎない
  • 外国人学習者は直訳して誤解しやすいが、歴史的な音訳文化を理解する手がかりになる
  • 現代日本語では「ムンバイ」と表記され、「孟買」は歴史的な表記としてのみ残っている
  • 当て字文化を学ぶことで、日本語がどのように外来語を取り入れてきたかが見えてくる