日本語でタンザニアを「坦桑尼亜」と書く理由とは?

借用語

監修者・竹村 直浩

会計事務所での経験を基にキャリアを開始。
約30年間にわたり、データベースマーケティング、金融、起業、BPO業務、新規事業立案に従事。
資金調達や財務管理にも精通し、現在は自ら代表を務める会社を経営しながら、経営管理や新規事業立案の業務委託も請け負う。

現代日本語ではアフリカ東部の国タンザニアをカタカナで書くのが一般的です。しかし古い新聞や外交文書には「坦桑尼亜」という漢字表記が登場します。この表記は中国語の音訳に由来し、日本と中国の言語文化交流を示す歴史的な痕跡です。本記事では、この表記が生まれた背景と文化的意義を解説します。

坦桑尼亜という表記の由来

「坦桑尼亜」は、中国語でTanzaniaを音に近い形で表記したものです。中国語では外国地名を漢字で表す際、意味ではなく音を優先します。日本が近代化の過程で中国語の資料や新聞を通じて海外情報を得ていた時代、この表記が日本語に入り込みました。

漢字発音(中国語)音の対応意味(直訳)
tǎnタン平らな、穏やかな
sāngサンクワの木
尼僧
アジア、次ぐもの

このように、漢字の意味は国名そのものとは関係がなく、あくまで音の再現が目的です。


当て字文化とその特徴

外国地名や外来語を漢字に置き換える「当て字」は、日本でも古くから行われてきました。例えば、アメリカを「亜米利加」、イギリスを「英吉利」と表すのも同じ文化です。

国名当て字表記現代カタカナ表記
アメリカ亜米利加アメリカ
イギリス英吉利イギリス
フランス仏蘭西フランス
ドイツ独逸ドイツ

この方法は視覚的に日本語の文章になじみやすく、漢字文化圏同士での情報伝達にも便利でしたが、読みが難しくなりやすいという欠点もありました。


坦桑尼亜が使われた時代と場面

「坦桑尼亜」は、明治期から戦前・戦中期の新聞、外交文書、翻訳書などに見られます。特に日本が中国語の新聞や地図を参考にしていた時期に多く使われました。

使用場面用例備考
歴史資料「東アフリカの坦桑尼亜地方」植民地時代の記述
外交文書「坦桑尼亜政府代表」中国語資料からの引用
新聞記事「坦桑尼亜産のコーヒー」国際ニュース欄
地図表記「坦桑尼亜」中国製地図を翻訳

現代ではほとんど見られませんが、歴史を知るうえで重要なキーワードとなります。


漢字表記からカタカナ表記への移行

第二次世界大戦後、日本では外来語や外国地名はカタカナで表記する方針が確立しました。これにより「坦桑尼亜」は「タンザニア」へと置き換えられ、統一が図られました。

時期主流表記理由
戦前坦桑尼亜中国語資料を引用
戦後タンザニア国語表記の統一
現代タンザニア読みやすさ・発音重視

カタカナ表記は視覚的にも理解しやすく、教育や報道でも使いやすいため、定着しました。


現代における坦桑尼亜の存在意義

現代では実用的な意味は薄れていますが、以下のような価値があります。

用途意義
歴史研究当時の資料を正確に理解できる
言語学当て字文化の変遷を学べる
漢字文化比較中国語と日本語の相互影響を知る
文化的演出漢詩や小説で異国情緒を表す

漢字文化圏の交流史を象徴する表記として、学術的・文化的価値は高いといえます。


まとめ

「坦桑尼亜」という表記は、中国語音訳を日本語に取り入れた歴史的当て字です。意味ではなく音を重視して漢字を選び、近代日本の外国地名表記に影響を与えました。現代ではカタカナ表記「タンザニア」が一般的ですが、歴史的背景を知ることで、言語の奥深さや文化交流の跡をより鮮明に感じることができます。