イエメンが「也門」と表記される理由とは?日本語漢字表記の音と歴史を読み解く

借用語

監修者・竹村 直浩

会計事務所での経験を基にキャリアを開始。
約30年間にわたり、データベースマーケティング、金融、起業、BPO業務、新規事業立案に従事。
資金調達や財務管理にも精通し、現在は自ら代表を務める会社を経営しながら、経営管理や新規事業立案の業務委託も請け負う。

中東の国イエメンは、日本語の文献や報道で「也門」と漢字で表記されることがあります。この表記には単なる当て字ではない、歴史的背景と音の一致という要素が隠れています。本記事では「也門」という漢字が採用された理由を、中国語からの影響・音訳のルール・象徴性の3つの観点から解説します。

イエメンとは何か?中東に位置する歴史深き国の概要

イエメンの地理と国際的な位置付け

イエメンはアラビア半島の南端に位置する国家で、紅海とアデン湾という重要な海域に接しています。北にサウジアラビア、東にオマーンと接し、中東においても戦略的に重要な位置にある国です。古代には香料貿易で繁栄し、サバ王国やヒムヤル王国などが興隆。イスラム文化と古代アラビア文化が融合した独自の歴史を育んできました。

首都サヌアの旧市街は世界遺産に登録され、石造りの高層住宅や精巧な装飾が特徴です。内戦や政情不安により困難な状況にありますが、その文化的・歴史的価値は依然として注目されています。イエメンの理解は、中東地域全体の文化・政治の理解にもつながる重要な鍵となります。


なぜ「イエメン」が「也門」と表記されるのか

「也門」という表記の音訳的側面の解説

「也門」という表記は、中国語からの影響を受けた音訳(音を漢字で再現する手法)です。意味ではなく、発音の一致を優先して選ばれた漢字です。

発音の音節対応する漢字音訳の理由
イェ「や」と読まれ、音が「イェ」に近いため選択
メン「もん」「めん」と読まれ、音の一致性が高いため

このように、「也門」は意味ではなく音を表すために選ばれた文字の組み合わせであり、中国語を経由して日本語に定着しました。


「也門」の漢字が持つ意味と文化的背景

「也」と「門」の漢字そのものの意味を考察する

「也」は文末助詞や副助詞として使われ、柔らかく補足的な意味合いを持つ漢字です。音読みで「ヤ」「エ」とも読まれ、発音上「イエ」に近いため選ばれました。

「門」は出入口や境界を示す象徴的な意味を持ち、音読みでは「メン」または「モン」です。この読みが「イエメン」の「メン」と一致するため、音訳漢字として適しています。さらに、「門」は都市国家や文明の入り口を象徴するため、国名表記としても意味的な深みがあります。

漢字音読み意味選ばれた理由
ヤ・エ補足・並列・中立的「イェ」に近く、中立的な意味で使いやすい
メン入り口・境界・都市の象徴音が一致し、国家名にふさわしい意味も含む

このように、音と象徴性の両方の観点から適した漢字が選ばれているのが「也門」なのです。


中国語からの影響と日本語への取り入れ方

「也門」は中国語由来の表記だった

「也門」という表記は、日本独自の創作ではなく、中国語表記の「也门」からの引用です。日本語と中国語は共に漢字を使用する文化圏であり、外来語を漢字に置き換える文化的共通点があります。

明治から昭和にかけては、新聞・地図・政府文書などで外国の地名も漢字で書かれることが一般的でした。「也門」もそうした中で輸入された表記の一つであり、現在でも公的文書や歴史的記述で使われることがある表記です。

時代表記方法特徴・背景
明治~昭和漢字新聞・外交文書では漢字表記が主流。視認性と正式感が重視されていた
現代カタカナ一般的な表記手段として定着。ただし漢字も一部で併用される

「也門」は、漢字文化圏の共通表記の一部として継承されてきたものと理解できます。


他の漢字表記された国名と比較してみる

音訳に基づく代表的な国名の漢字例

漢字による国名表記は、「音の近さ」を優先して作られてきました。以下に、代表的な例を示します。

国名漢字表記音訳要素
アメリカ米国「米利加」の略称。米=メリカの音。
イギリス英国英語圏の国。音と意味を組み合わせた略称。
フランス仏蘭西仏=フ、蘭西=ランス。音を漢字に変換。
ドイツ独逸独=ドイ、逸=イツ。中国語からの影響。

「也門」もこの流れの中で自然に定着した音訳表記の一つといえます。


現代における「也門」表記の使われ方と意義

カタカナと漢字の併用・文脈による使い分け

現在では「イエメン」とカタカナで書かれることが一般的ですが、「也門」は新聞の見出しや公的な場面で今も使われています。これは、文字数の節約や視認性の向上を目的としています。

また、漢字は視覚的な印象や文化的重みを持ち、歴史や伝統に配慮する文章では好まれる傾向があります。特に、外交、学術、報道などでこの表記が活用されるのは、その正式性や品位の高さが評価されているからです。


まとめ

「也門」という表記は、ただ音を真似たものではなく、漢字文化圏における音訳、象徴性、文化伝承の複合的な結果として存在しています。中国語表記を経由して日本語に取り入れられたこの言葉は、言語が持つ柔軟性や、歴史的背景を映す鏡のような存在でもあります。

現代においてはカタカナ表記が主流になったとはいえ、「也門」のような表現は、知的な厚みと歴史の重みを持つ文化遺産としての価値を持ち続けています。漢字による国名表記は、単なる文字の置き換えではなく、文化的交渉の証であるといえるでしょう。