ロンドンを日本語で「倫敦」と書く理由とは?歴史と文化を外国人向けに解説

借用語

監修者・竹村 直浩

会計事務所での経験を基にキャリアを開始。
約30年間にわたり、データベースマーケティング、金融、起業、BPO業務、新規事業立案に従事。
資金調達や財務管理にも精通し、現在は自ら代表を務める会社を経営しながら、経営管理や新規事業立案の業務委託も請け負う。

ロンドンは日本語で倫敦と表記されることがあります。これは英語のLondonを音に合わせて漢字に変換した当て字の一例です。本記事では、この表記が誕生した背景や文化的意味、さらに他の外国都市の表記との比較を通じて、日本語独特の表現文化を外国人にもわかりやすく紹介します。

外来地名を漢字に置き換える文化の背景

日本では江戸末期から明治にかけて、外国都市名をそのままカタカナで書くのではなく、音に近い漢字をあてる習慣が広まりました。当時は新聞や翻訳書が増えた時期で、文章全体を漢字主体で統一するほうが読みやすく、格式があると受け止められたためです。

また、中国語の影響も大きく、中国では古くからローマを羅馬、パリを巴里などと表していました。日本はこうした表記を輸入し、自国でも自然に使用したのです。

例としてよく見られる漢字表記をまとめると以下のようになります。

都市名漢字表記読み方
ローマ羅馬ローマ
パリ巴里パリ
ベルリン伯林ベルリン
ロンドン倫敦ロンドン

これらはいずれも意味より音の再現を重視した表記で、視覚的な調和も兼ねていました。


倫敦という漢字表記の由来

ロンドンの発音「ロン・ドン」を日本語に移し替え、音に対応する漢字を選んだ結果が倫敦です。

当てた漢字本来の意味
ロン秩序、人の道
ドン厚い、誠実

ここで重要なのは、意味そのものではなく音の近さを優先したことです。倫と敦を組み合わせても都市の性格を表しているわけではありません。むしろ視覚的な調和と発音の一致を意識して構成されています。


なぜカタカナではなく漢字が使われたのか

明治期以前、カタカナは補助的な文字と考えられていました。そのため正式な文章では漢字を使うことが好まれ、都市名も音に近い漢字に置き換えられました。

理由を整理すると次の通りです。

理由説明
文章の統一感漢字で表記する方が文章全体の調子を整えられる
中国文化の影響すでに中国で漢字による外来地名表記が確立していた
印刷の都合活字の配置が安定し、版面の見栄えが良い

このように複数の要素が重なり、倫敦という表記が自然に普及していったのです。


現代における倫敦の使われ方

今日では一般的に「ロンドン」とカタカナで書きます。教科書、地図、ニュースなどで倫敦を見ることはほとんどありません。

しかし文学やデザインの場では今も命を保っています。たとえば、明治や大正を舞台にした小説では、当時の空気を出すために倫敦が登場することがあります。またレトロな広告やポスターでも、独特の重厚感を出すために選ばれることがあります。


他の外国都市との比較

倫敦は例外ではなく、多くの都市名に似たような表記が存在しました。以下の表は、日本と中国での表記を比較したものです。

英語名日本での漢字表記中国での表記カタカナ表記
London倫敦倫敦ロンドン
Paris巴里巴黎パリ
Berlin伯林柏林ベルリン
Rome羅馬羅馬ローマ
Moscow莫斯科莫斯科モスクワ

日本と中国で多くの表記が一致していることから、表記の多くは中国語経由で伝わったことが理解できます。


音写と日本語の調整

外国語を日本語に取り込む際には、子音や母音の違いを埋める工夫が必要です。

英語の音日本語での処理
Lら行の音に置換London → ロンドン
子音連続母音を補うBerlin → ベルリン
語末の子音撥音「ン」で表現London → ロンドン

この調整を経て、ロンドンという音形が確立し、そこから漢字化が行われました。倫敦はその延長にある表記です。


表記の変遷の流れ

時代ごとに表記の主流は変わってきました。

時代主な表記特徴
江戸後期中国経由の漢字音訳蘭学書や翻訳で使用
明治初期漢字音訳(倫敦など)新聞や雑誌で多用
大正~昭和カタカナ表記と併存教科書などでカタカナが強まる
戦後以降カタカナ表記が主流倫敦は歴史的な表記として残存

つまり倫敦は、過去の日本語と世界の接点を映し出す鏡のような存在なのです。


まとめ

ロンドンを漢字で倫敦と書くのは、音を漢字に写す文化的な慣習によるものです。中国語の影響を受けながら、新聞や学術書に広がりました。現在はカタカナ表記が標準ですが、文学やデザインの世界では倫敦が持つ重みが活かされています。

この表記は単なる古い書き方ではなく、日本が外国の言葉をどう受け入れてきたかを示す歴史的な証拠です。外国人にとっても、日本語の奥深さを知る入口となるでしょう。