インドの首都デリーが「德里」と書かれる理由とは?漢字文化と日本語表記のつながり

借用語

監修者・竹村 直浩

会計事務所での経験を基にキャリアを開始。
約30年間にわたり、データベースマーケティング、金融、起業、BPO業務、新規事業立案に従事。
資金調達や財務管理にも精通し、現在は自ら代表を務める会社を経営しながら、経営管理や新規事業立案の業務委託も請け負う。

普段目にする「デリー」というカタカナ表記の背後には、かつて漢字で「德里」と記されていた時代がありました。これは単なる偶然ではなく、漢字文化圏における音訳の習慣や中国語との関わりから生まれた表記です。本稿では、「德里」という言葉が持つ歴史的背景と、なぜ現在では使われなくなったのかをわかりやすく紹介します。

日本語における外国地名の漢字表記の歴史

日本語は長い間、漢字文化圏の中で発展してきた。そのため、外国の地名を音に基づいて漢字に置き換える習慣が存在した。たとえばアメリカは亜米利加、フランスは仏蘭西、ロンドンは倫敦と表記された。これは意味を訳したものではなく、音を近づけるための当て字である。当時はカタカナがまだ一般的ではなかったため、漢字に置き換えることで読みやすさと親近感を保っていた。

外国地名の漢字表記の例

国や都市当て字現代表記
America亜米利加アメリカ
France仏蘭西フランス
London倫敦ロンドン
Delhi德里デリー

德里という表記の成り立ち

德里の由来は明確で、音の近似を目的とした当て字である。德はトクやドクと読まれ、デの音を担う。里はリと読むため、両者を組み合わせればデリとなる。さらに、この表記は中国語の德里(Dé lǐ)から取り入れられたと考えられる。日本の新聞や外交文書が中国の文献を参照していたため、そのまま転用されたのである。

德里という表記の音対応

漢字音読み英語の近い音用いられた役割
トク ドクde do語頭の濁音を表す
li ri語末の i 系音を表す

戦後に德里が使われなくなった理由

現代日本語では德里という表記は使われない。その理由は表記の標準化と誤解防止である。戦後の表記改革により、外国地名はカタカナで統一された。カタカナは音をそのまま示せるため誤解が少なく、国際的にも通じやすい。また、德里と書くと中国語の語感が強く、都市名ではなく熟語のように誤解される危険もあった。

戦後の表記改革とカタカナの優位性

項目従来改革後
外国地名漢字当て字カタカナ表記
メリット親しみやすい音に忠実 誤解が少ない
デメリット意味の混同が起きる文字としての重厚感は弱い

他の地名と比較した德里の特徴

德里は他の当て字と比べても特徴が際立つ。亜米利加や仏蘭西は複雑な構造を持つが、德里は二文字で簡潔かつ発音を再現している。そのため、新聞見出しや地図に使うと収まりがよかった。

当て字の文字数と簡潔さの比較

地名当て字文字数特徴
America亜米利加4字派手で記号的
France仏蘭西3字見慣れた音訳
London倫敦2字音の分割表記
Delhi德里2字簡潔で読みやすい

現代に残る德里の痕跡

今日では德里はほとんど使われないが、古地図や戦前の新聞記事、歴史的資料には今も残っている。また、中国語の文脈では今も德里が現役で用いられており、日本語学習者が中国の資料を読む際に遭遇することがある。美術館の展示や復刻出版物でも、当時の雰囲気を再現するために德里が登場する場合がある。

德里が残る場面

媒体用例現在の扱い
古地図印度の都市名として德里歴史的表記として保存
新聞(戦前)外交記事や旅行記復刻版でのみ確認可能
中国語資料現在も德里を使用発音を重視した音訳
博物館展示当時の資料に基づく解説にカタカナ表記を併記

外国人に役立つポイント

外国人が日本語で Delhi を調べるとき、デリーと德里の両方を知っておくと資料探索が容易になる。古い索引や辞典では德里が先に立つ場合があり、検索に工夫が必要である。また、徳と德という字体差にも注意する必要がある。

検索や学習で役立つポイント

注意点解説
カタカナ表記現代ではデリーが標準
旧字体德と徳の両方を意識する必要あり
中国語との共通性中国でも德里を使用
学習上の工夫デリーと德里を両方検索に含める

まとめ

デリーを德里と表記したのは、日本語が外来地名を漢字で受け止めていた時代の歴史的名残である。德と里の組み合わせで音を近似し、中国語経由で日本に入った結果広まった。戦後の表記改革によってカタカナが標準となり、德里はほとんど使われなくなったが、古い文献や展示の中では今も生きている。德里を知ることは、日本語の表記史を理解する手がかりであり、外国人にとっても文化の深層を垣間見る窓口となる。